2009年7月12日日曜日

デザイン思考の仕事術/棚橋弘季

すべての仕事は関係編集であり、それはつまるところデザインである


棚橋さんの最新刊である
『ひらめきを計画的に生み出すデザイン思考の仕事術』を読みました。

棚橋さんは人間中心/ユーザー中心のデザインという考え方のもとで、
Webサービスの企画設計などを行われている方です。
処女作には『ペルソナ作ってそれからどうするの?』
というWebサイト設計を論じた
もの凄く骨太で読み応えのある素晴らしい作品があります。
ブログでもご自身の考えを精力的に発表されており、
このブログの【My Favarite Blog】でもリンクを貼らせて頂いています。

その棚橋さんが発表された二作目が今回紹介する本になります。

実はこの本、発売前からAmazonで予約をしていて、
自宅に届いたのが7月1日でした。
心待ちにしていた本でしたので、
届き次第すぐに読み始め、その日のうちに読了しました。

ほんとうはその日のうちに感想を書いておきたかったのですが、
諸事情により文章を書く気が全くおきず、
自宅のパソコンもノータッチな日々が続いていました。

面白いものですね。
また一つ自分の思考・嗜好がわかりました。

仕事が行き詰って閉塞感が漂ってくると、私はなんとかそれを打破しようと
色んな本を読んだり、自分の人脈を使って色々な人の仕事を見に行ったり、
色々と議論したりし始めます。
その中で濃いー対話や議論ができると徐々に自分の中に新しいアイディアや
何がしかのやる気が出てきます。そういう状態では、家に帰ってきてから
パソコンを立ち上げてブログを書く気がしなくなるんですね。
現実のリアルな生活で頭を使い切ってしまって、パソコンに向かって何かを
ボソボソと書いていることに耐えられなくなることがあります。

私にとって「書く」という行為は、
「まとめたい、整理しておきたい」という欲望の結果です。
色々と議論をしているとアイディアが
カオスのように自分の中に形にならずに蠢きます。
グツグツと煮えたぎっているような感じです。
おそらく私は、この状態をこの状態のままにしておきたいのでしょう。
この状態を下手に言葉にして台無しにしたくないという「思い込み」があって、
文章などにはしたくないんだと思いました。

アイディアとアイディアの関係。
そこから立ち上がってくるぼんやりとしたコンセプト。
人と新しいアイディアによって創りだされる創発的な場のイメージ。

そういったものが固まってくるまでは、私の場合モンモンとしていたいんですね。
そしてそれが固まってきてからは一気にノートに落書きしていく。
ある程度書き出せたら始めてパソコンを使ってある程度綺麗にまとめて、
その内容をもとにチームメンバーで共有、対話を行う。
そしてそこで話し合われた内容をもとに、企画をブラッシュアップ・・・。


そんな状況が先週までの私だったわけです。
こういうサイクルにはまると、
私はなるたけパソコンに触りたくなくなることに気がつきました。
パソコンで字を書くというのは、思考にとって邪魔なんですよね。

白川漢字学の学徒である私にとって、字の中に潜むオモカゲと戯れながら
一つ一つの言葉を書き出したいのに、
パソコンは字に対応するキーを叩くだけ・・・。
思考を豊かにする「書く」という場が台無しな感じがしてしまう。

すいません、もの凄い脱線でした・・・。


それでは、この本の紹介に入りましょう

まずは目次から・・・

◆目次
はじめに
・バラバラの情報が散らばった世界で
・十八世紀ヨーロッパの情報爆発
・あらゆる仕事がデザインである
・仕事に活用するデザイン思考

Chapter 1 デザイン思考とは
・ビジネスシーンで注目される「デザイン思考」
・デザイン思考が仕事を変える
・デザインの方法とプロセス
・情報化~情報の構造化のスキル
・デザインとは生活文化をつくる仕事
・グループワークでアイデアを創発する
・デザイン思考の仕事術のための基本姿勢・七箇条

Chapter 2 デザイン思考の「情報収集術」
・川喜田二郎さんの発想法
・情報の圧縮化から発想が生まれる
・情報と情報化
・人間行動の観察のための七つの着眼点
・調査は新たな視点の発見のために行う
・ワークモデル分析
・ヴュジャデをみるために
・デザイン思考のための情報収集ではないこと

Chapter 3 デザイン思考の「企画発想術」
・発想のひらめきはどこからくるのか?
・パースのアブダクションと記号学
・KJ法を行う準備をする
・KJ法を使って情報を動かす
・図解化することで全体が俯瞰できるようになる
・グランドデザインを組み立てる
・利用者像のモデル化
・ペルソナをキャスティングする
・シナリオによるデザインコンセプトの明示
・デザイン要件を抽出する

Chapter 4 デザイン思考の「問題解決法」
・コンセプトを具現化する
・デザイン要素の構造化
・物事を包括的にとらえる目利きの力
・身振りを通して
・蒐集~モデル化~編集
・トライアンドエラーを計画的に
・利用シーンのシミュレーション
・ユーザーを使った検証

Chapter 5 デザイン思考の「職場作分術」
・人工物の意味の四つのコンテキスト
・在点―ポイント・オブ・ビーイング
・場と作法
・リフレーミングで自分の枠の外に出る
・働く場の作分
・プロジェクトをデザインする
・仕事の空間を遊びの場にする
・なぜ遊びの場なのか?
・手続きと趣向

おわりに
・「デザインしすぎない」

上記の通り、この本は全5章立て、合計251ページで構成されています。




◆デザインってなんだろう?

本書では「デザイン思考」の重要性が謳われているわけですが、
そもそもデザインというものはどういう行為なのでしょうか?

棚橋さんは著書でこう書いています。

デザインは生活に秩序を提案し実現するものです。
物に意味を与える仕事です。
人は「分かる」ためには物事を「分ける」必要があります。
地と図がその境にある輪郭線で分かれているからこそ、人は物を認識できる。
概念で分けたものを五感で認識できる色や形を与える仕事がデザインです。

(中略)

さあ、ここで勘違いを正しましょう。
いま自分たちが置かれた状況を少しでも良くしようと思って仕事をしているのなら、
その仕事はデザインなのです。
あえて定義するならデザインとは、人間自身の生活、生き方、
そして、生命としてのあり方を提案する仕事です。
そのためには人が生きていく上で何が問題になっているのかを知り、
その問題解決に役立つ道具や手段、しくみを考え、
現実に人がそれを利用できるようにするためのさまざまな段取りを行うことが必要でしょう。
暮らしの道具をつくること、仕事の計画をたてること、
企業が利益をあげるために組織を編成すること。
そうした人が何かをよりよく成し遂げるための
人工物を考え、生み出す活動すべてがデザインです。

これは当たり前といえば当たり前ですよね。
デザインという言葉の日本語訳は一般的に「設計」です。

我々ビジネスパーソンは仕事を行う時に必ず、企画、分析、設計、実施、評価をしますよね。
ですから、あらゆる仕事には設計、つまりデザインが求められるわけです。
上記の文章を読んで「なーんだ、あたりまえじゃないか」と思う人もいるでしょうが、
そう思った人こそもう一度上記の文章を読み直してください。

我々の仕事には必ず「設計」が伴います。
そこで質問ですが、
その設計は何のために、誰のために、何を中心において行われているのですか?

我々は往々にして目的を忘れがちではないでしょうか。
少なくとも、私の周りには「設計」と称して、
誰のための設計なのかが全く分からないような
機能や製品を作ろうとするメンバーが溢れています。

私は仕事においてシステム開発(会社のなかで使われる業務システム)と
システム開発に関係する技術やプロジェクト運営などの
テクニカルインストラクションを担当しています。

皆さんも聞いたことがあるかと思いますが、
システム開発の分野もインストラクションの分野も
ややもすると「使えないシステム」だとか、
役に立たない教育」などというものが溢れていたりするものです。
特にシステムについては、使えないならまだしも、
動かないシステムなんていうものまであるわけですからどうしようもありません。

じゃ、なんで使えないの?役に立たないの?
もうこれは答えは確実です。
棚橋さんが書かれた上記の文章にすべて答えは入っています。

答え:
その製品やサービスが、それを利用する人たちに
新しい関係性を提案できていないから。
要は本当の意味でデザイン、設計がなされていないからです。

作り手の勝手な思い込みで、関係性に対する考慮もなく、
物事が作られていくからです。
言葉は悪いですが、こういう仕事は私の周りで
マスターベーションワークと言われています。

新しく作られるモノやサービスが
それを使う人の生活や仕事に調和をもたらさないかぎり、
良いモノやサービスとして認められることはありません。
売れもしませんし、仮に売れたとしてもお客様は喜びません。
これは仕事の原則だと思います。

ですから、この文章をスルーできる人、
読んでも何も感じない人というのは
仕事をしていない人か、
仕事をしているつもりになっている人でしかないと思います。

個人的に、この箇所に何かを感じられさえすれば、
本書を読む準備体操はできたのではないかと思っています。


なぜならデザインとは、先にも引用したとおり



デザインは生活に秩序を提案し実現するもの

であり、デザイン思考とは、

現実的な事業戦略にデザイナーの感性と手法を取り入れ、
人々のニーズに合った顧客価値と市場機会を創出すること

であるからです。

そして本書はそのデザイン思考における
仕事の方法論を体系立てて説明したものだからです。
デザインという行為に対する本質を突き詰めていく姿勢のない人が
方法論だけを学んだところで何もつくれやしません。
ですから、まずは先に引用した棚橋さんの文章をじーーーーっくりと
噛みしめることが大事ではないかと考える次第です。

これができた人こそが、棚橋さんが本書で展開している
デザイン思考の仕事術からもの凄く沢山の気づきや
学びを得ることができる人だと私は思います。

これ以上はあまり多くを語ろうと思いません。

最後に一言だけ・・・。
棚橋さんの視点と姿勢、そこから生まれる香り。
柔らかな強さ。
それがこの本の細部に宿っていること。
これがこの本の最大の魅力だと思います。

棚橋さん、前著同様、真面目にものを考えるきっかけとなる
良質な本を生み出してくれてありがとうございました。


0 件のコメント: