2009年5月11日月曜日

銀の匙/中勘助

少年時代の楽しかった、嬉しかった、悔しかった、悲しかった思い出が玉手箱のようにあふれ出す・・・

夏目漱石が「子供の世界を綴って未曾有だ」と驚嘆した作品、
それが今回ご紹介する中勘助の『銀の匙』です。

読み終えて思うこととしては、日本語を母国語とするものにとって、
日本語の美しさを堪能することが出来る稀有な一冊ではないかということです。

銀の匙とは、著者が小さいときに母親からもらった由緒ある匙で、
大人になっても時々、小箱からそれを取り出して飽きもせずに眺めている・・・。
そんな匙に誘われるままに、自分の小さかったときの思い出を淡々と紡いでいく、これはそんな話です。

単純にこの本の内容を述べるとすると、著者の幼少の頃の思い出話です。
そんなはなしが延々と202ページにわたって続きます。
これだけ読むと、なんか、つまらなそうな話ではあるのですが、この本はつまらなくない。
読んでいてみずみずしいのです。物凄く文章が綺麗なんです。感性が物凄く柔らかいんです。

一般的に誰でも幼少の頃の思い出を語ることは出来ます。
しかし、大人になってから幼少の頃の話を語ると、そこに意図せずして
大人の解釈や感性が顔を出してしまうはずです。
子供の視点で見て感じた子供の世界が、大人になって振り返ると脆くも壊れ崩れてしまう。
それほど子供の視点というのはフラジャイルなわけですね。

それが中勘助にかかると、大人が大人の言葉を使って書いているにもかかわらず、
そこに描かれる世界は子供の瑞々しさを失わないのです。これがこの作品の一番素晴らしいところです。

疲れた体と心にはたまにこういう本を読んで、栄養を与えてあげるべきだなと思った次第です。

それから、この本を読もうとして面白かった点をご紹介します。
私はこの本を土日を使って読もうとしたのですが、土曜日は読もうと思っても読み続けられませんでした。
自分の体調や思考モードがセピア色の思い出に耽りたいという読書状態に切り替えできなかったからです。
正直、読んでいて「文章は綺麗だけど、著者の思い出話を延々と聞かされてては堪らない」という感じになりました。
よって、土曜はいったん読書を中断し、気分転換した上で、日曜の夜に改めて読み直したわけです。
読書するに当たって、自分の思考モードを幼心モードに切り替えるべく、簡単な儀式を行ってみたりしました。

そうしたらどうでしょう。言葉が眩く感じられ、目がくらみました。

松岡正剛さんはこの本についてこんなコメントをしています。

中勘助のはそうではない。まるで子供の心そのまま、
子供の心に去来するぎりぎりに結晶化された言葉の綴れ織りなのである

珠玉の一冊とは、こういう本を指すんでしょうね。
短編を書いている友人よ。こういう本に触れて、その感性を研ぎ澄ましたらどうだろう。





2 件のコメント:

Masami さんのコメント...

文庫になっているようだから、多分購読対象。

本屋によった時に、チェックしてみるよ。

Hidehiro Takeda さんのコメント...

岩波文庫になってますので、
チェックしてみてくださいな。