2008年9月28日日曜日

平野啓一郎の最新作『決壊』を読んだ

私の書籍購入としてはいつ以来になるでしょう・・・。
ほんと数年ぶりにハードカバーの小説を購入しました。

それが今回紹介する平野啓一郎さん著の『決壊』(上・下2巻)です。
800ページくらいある長編小説ですが、
昨日の夜24時くらいに読み始めたら止まらなくなり、
朝の8時くらいまでかけて一気に読み終えました。

評価:★★★★★

ここ数年で読んだ小説の中で一番読み応えのある小説でした。
私自身、平野さんの著書はデュー作と2作目しか読んでいませんでしたが、
先日ウェブ人間論を再読してまた急に興味が湧いていたところにこの小説です。
改めて平野啓一郎と言う作家はスゴイと思いました。
難しい、というか私にとっては意味不明な著作もありましたが、
やっぱり天才だったんですね。

私がこの作品を素晴らしい、というか完璧と思った理由は幾つかあります。

まず1つ目。
小説のテーマが社会と接点のあるものであるときに、
小説の枠を越えて社会に大して本気でメッセージを投げかけるには
どのようなストーリー展開が必要なのかを意識して書かれている点。

私自身、小説が小説という枠を越えて社会に問いかけを行うときには、
小説が持っている予定調和的なストーリーでは絶対駄目だと思っていました。
「結局は、もしくは所詮は小説の中の話だろ」という印象を読み手に与えて話が終わっては、
届けるべきメッセージが届かないと思います。
そのような小説としては、届けたいメッセージが、読み手にエンターテイメントとして消費されて
終わってしまうと思うからです。

ふつうなら陥るであろう予定調和を最後に持ってこない展開にしたところが、
この作品が、すくなくとも私には、そのメッセージを届けることに成功した理由です。



次に2つ目。
この小説には、普段人間が意識しない道徳や常識の起源を(ニーチェ的には道徳の系譜)、
芸術家特有の感性のナイフにより抉り出して読者に突きつける点です。

私にとって、この作品はドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』や
ニーチェの哲学につながるような思想的問題を、著者なりの解釈で問い直したような小説です。
競争社会におけるストレス、格差、学校でのいじめ、不登校、人が持つ二面性の問題、など
現代社会が抱えている問題を織り交ぜながら、思想的問題を読み手に問いただしていく
アプローチは非常に上手く書けています。

現代は様々な情報が溢れているため、昔のように同じ体験や情報を共有したりすることにより
醸成される共同価値観というものが急速に失われているような気がします。
※ある意味、ウェブ時代の人間は特にこのような状況に晒されているのかもしれません。

そのような世界において人が行き着く先は、現状の社会を成り立たせているシステムの
思想的な見直しだったりするのではないでしょうか。そしてそこにその社会の持つ道徳の
欺瞞性を見抜くことでしょう。そこを小説家の想像力で生々しいまでに描いたのが
この作品の魅力だと私は考えます。


最後に3つ目。
先の2つとも関係してきますが、ひとえにこの作品が私にとって非常にリアルであること。
もうこれについては「読んでみて!!」としかいいようがありません。


おまけで、欠点を1つ。
この本、ページをめくり続けていると手が真っ黒になります。
全体が黒インクまみれの装丁(パット見はオシャレ)であるため、
ページをめくると手にインクがついて、本体の真っ白い部分に
指紋がペタペタついてしまった・・・。



結び。
上記に「読んでみて!!」と書きましたが、この本を読んで読み手は
一切救われなくなる気分になると思います。
道徳的な方は読んでいて気分が悪くなるかもしれません。

ニーチェの哲学が問いかける以下の質問や回答に耐えられますか?
耐えられるのであれば、読んで見てください。


問い:なぜ人を殺してはいけないのか?

答え:この問いには答えがない。

ニーチェの究極解:
重罰になる可能性をも考慮に入れて、どうしても殺したければ、やむを得ない。
※究極的にはそうすべきだ、という思想がニーチェである。
  自分がいつ死んでも良いと思っているものに対しては、いかなる倫理も無力です。
  自分の生の肯定こそが倫理性の基盤であって、その逆ではないというのがニーチェの主張。


以下は、YouTubeに掲載されている、著者本人が語る本書についてのメッセージ
http://jp.youtube.com/watch?v=xIFG2KF8zj0



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